役所の無駄遣い、JAL経営危機!これが究極の改革案だ 大前研一の日本のカラクリ プレジデント 2010年2.1号
http://president.jp.reuters.com/article/2010/01/19/609D3D90-00DA-11DF-8773-220A3F99CD51.php
JALの経営にもパーキンソンの法則は当てはまる。会社が存在しているだけで余計な仕事が生まれるのだ。
~~~~
出来上がったものは壊す。そしてイチから作り直す。
あるいは、出来上がったら面白くなくなる。。。
壊すのと作るところまでは面倒見るよ。でも、継続は。。。お任せするよ。
◇作業自体が無駄だった民主党の事業仕分け
仕分け人がテレビカメラを前にして官僚をこき下ろす――そんな場面が印象的だった民主党の事業仕分け。予算の無駄遣いにメスを入れ、予算編成のプロセスが“見える化”されたなどと評価する向きもあるが、まったくの不見識である。そもそも事業仕分け自体が無駄な作業であり、問題の本質を解決できるはずがなかったからだ。
事業仕分けがなぜダメなのか、企業経営の視点から考えてみたい。
たとえば、日本航空(JAL)のような会社はいくら少数精鋭にしたり、コストダウンしても将来性が期待できるような元気な会社にはならない。 LCC(ローコストキャリア)と呼ばれる格安航空会社は、JALの半分の値段で飛行機を飛ばして利益を出している。どうしてこっちは赤字で、向こうは黒字なのか。
ありていに言えば、会社組織というのは年とともに垢やコレステロールが溜まっていくのである。たとえば小売業の場合、古い会社では販売管理費が26%ぐらいかかる。目に付いた無駄を削ったところで、21~22%がせいぜいだろう。しかし新しい会社が勢いよく伸びているとき、アメリカのウォルマートがシアーズを食っていった頃の販管費は13%にすぎない。「26対13」では勝負にならない。
会社に垢やコレステロールが溜まる理由については、「パーキンソンの法則」がよく知られている。「仕事量は与えられた時間を使い切るまで膨張する」というのが有名な第一法則だが、20世紀のイギリス歴史・政治学者であるパーキンソンは、「間接業務は目的とは関係なく人の数に比例して増える」と、組織が肥大化する法則性についても指摘している。
新しい会社は人手が少ないから、必要最低限のことしかやらないし、1人で3役も5役もこなさなければならない。会社が大きくなって人が増えると、仕事のやり方が機能ごとに細分化されていく。そのほうが仕事はルーチン化するので確実になるし、新しく入ってきた人も仕事を覚えやすいからだ。しかし組織が肥大化して機能が分化すれば、それぞれの管理業務や連結的な間接業務も必要になる。
このようにして組織は「大企業病」に侵されていく。そういう会社がコストダウンをするとどうなるか。昔のように1人5役の仕事ができる人材などいないのに、仕事の内容、定義を変えないまま各部門の人員をまずは均等に減らすから、現場の仕事は倍以上に忙しくなる。日本のビジネス社会で鬱病や自殺が急増しているのは、猛烈なリストラ旋風の中を生き残った社員に滅茶苦茶なしわ寄せがきているからだ。
◇末端は何も考えなくなる肥大化ありきの官僚機構
JALの経営にもパーキンソンの法則は当てはまる。会社が存在しているだけで余計な仕事が生まれるのだ。飛行機を飛ばして顧客をA点からB点まで時間通りに運ぶ、という業務以外の仕事をしている人間が組織の大半を占めるようになる。そこでコストダウンすれば、今度はパイロットも客室アテンダントも疲労困憊し事故の危険性が高まる。機械の修理や整備部門のコストを削れば、こちらも破綻しかねない。
一方、サウスウエスト航空(アメリカ)、エアアジア航空(マレーシア)、ジェットスター航空(オーストラリア)、ライアンエアー航空(アイルランド)などのLCCでは1人の社員が3役も5役もこなす。カウンターでチケットを切っていた人が客室乗務員になったり、パイロットが荷物の収納係をしていたり。だからJALの半値で飛んでも儲かる。
安全性も分業体制で確認する大手と違い、パイロット一人一人が全体をきちんと確認したうえでフライトするので事故率も低い。つまり、JALがいくらコストダウンしても、LCCに対抗できるはずがないのだ。
そのJALを上回る大企業病の権化が、ニッポンの「官僚機構」である。中央集権の官僚機構には2つの問題点がある。
1つは、肥大化する組織の末端にまで栄養を行き渡らせなければならないので、中央から配る金が毎年増えていくこと。もう1つは、中央集権の一番の問題として、末端が何も考えなくなること。ヘタに考えると中央に反旗を翻したように受けとめられるので、創意工夫がまったくなくなる。結果、地方自治体などの末端の役人は、パブロフの犬のようになってしまう。これが日本の官僚機構がつくり出した凄まじい無駄であり、機能不全なのだ。
民主党の事業仕分けは、JALの再建のようなものだ。中央集権が生み出した膨大な無駄を一つ一つ個別の案件として取り上げては、現場から一番遠い素人が良いか悪いか白黒をつけていく。その手法自体が間違っている。栄養が回らなくなれば今まで動いていたものが動かなくなる。結局「このままでは死んでしまうから何とかしてください」とひたすら陳情するだけで、実態は何も変わらない。だから95兆円の概算要求に対して、1兆3000億円程度しか削れないのである。
◇カットするのではなくゼロからつくり直す!
では、どうすればいいのか。企業再生の常道でいえば、ゼロベースからつくることである。カンタス航空(オーストラリア)がLCCのジェットスターをつくった手法がそれだ。カンタスの人材が航空会社のノウハウを持ち込んでゼロからジェットスターを立ち上げ、今ではカンタスの半分のコストで利益を出している。
つまりJALを建て直すのではなく、LCCをゼロからつくる発想である。そのときにJALの運営ノウハウは役に立つかもしれないが、同じ仕掛けを小さくつくってもダメ。社長自ら雑巾掛けして、1人で何役もこなすところからスタートするのだ。たとえば、オフィス用品通販・アスクルが、親会社プラスの事業部としてではなく、岩田彰一郎社長とスタッフ2名でゼロから立ち上げた(1997年)から成功したのと同じ理由だ。
行政におけるゼロベースの改革とは何か。鳩山民主党の言葉を借りれば、人口30万人規模の基礎自治体を一度ゼロからつくり直すことである。
たとえば基礎教育。その最大の責務が自立した社会人をつくることとすれば、義務教育において文科省の指導要領を読むだけの職業教師は不要となる。
難しい学科の勉強は全部ネットでできるのだから、学校では近所のコンピュータ会社の技術者がパソコンを教えたり、弁護士が法律の基本を教えたり、八百屋さんが仕入れと原価の関係を教えたりすればいい。社会の中には子供たちに大事なことを教えられる人が山のようにいる。そういう人たちを活用し、ネットを最大限利用すれば、職業教師は今の5分の1で足りる。
しかも、より心のこもった教育を地域住民総出で行える。義務教育とは何か、何を達成したいのか、などをゼロベースから考える、そしてつくる、からこそ経費も何分の1になるのだ。今のやり方のままで削っていっても、せいぜい数%しかできないのと対照的である。
もう一つは高齢者の活用。高齢化社会の特徴は時間も金も余っている高齢者が増えることなのだから、介護、看護、保育の分野などで高齢者が社会貢献できるシステムをつくる。保育施設をつくるより、子育ての経験がある高齢者が近隣の子供を預かるようにしたほうが、よほど安上がりだし保護者も安心するだろう。
コミュニティ総出で責任を持って幼児や子供たちを育てれば、血の通った教育ができるしコストも下げられる。自警団や消防団などの活動も手分けして、たとえば火災発生時に消火活動を行えば、延焼などの被害拡大を防ぐこともできよう。昔はどこの村でもそうやっていたのだ。
要は、コミュニティの住人が行政サービスを分担することで社会コストは大幅に下がり、地域の輪ができる。それが犯罪を減らし、コミュニティの安心・安全にも大きく寄与するのだ。
このように基礎自治体というものをベースにゼロから組み立てるLCC的アプローチをすれば、私の試算では日本の行政コストは5分の1になる。
大きく削れる最大の理由は、日本全国同じ仕事をしている許認可や届けの部分にはクラウドコンピューティング(ネット上のサーバーを利用して処理するシステム)が使えるし、地域住民が行政の仕事を手分けするからである。皆が行政サービスの受益者としてホテルに泊まっているような感覚になっているから膨大なコストがかかるのであり、そのサービスメニューを全国一律で考えるから不必要な無駄が生まれているのだ。
そして、行政コストを下げるインセンティブとして、基礎自治体には「徴税権」と「立法権」を持たせる。コミュニティで使う金はコミュニティで集め、使い道も自分たちで決めるのだ。
民主党の事業仕分けも結局は中央主権的手法である。質問に答えられなかったら全部カットするような乱暴なやり方では、本当に必要なものかどうかは見分けられるわけがない。そもそも必要な金かどうかは、それを使う(そして負担する)コミュニティが最終判断すべきで、国がすべての予算を決めるところに本質的な問題があるのだ。
要らないものをカットするのではなく、ゼロからつくり直して必要なものだけを足していく。そういう発想に変えなければ、機能不全に陥った日本という国家を再生することなど到底できないだろう。
役所の無駄遣い、JAL経営危機!これが究極の改革案だ
投稿日:
執筆者:osakanamanbow