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左肩のホクロを摘出。その病理所見

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病理診断 並びに 所見
後天性色素細胞性母斑。クラーク型。左肩。
やや左右非対称のシルエットを示す、比較的小さなドーム状隆起性病変です。
真皮表皮境界部に比較的小型の色素細胞胞巣が認められます。
少数の軽度異型細胞を混じています。
下床に密なリンパ球浸潤を伴っています。
孤立性増殖よりも胞巣形成性増殖が優位です。
比較的密なリンパ球浸潤を伴っています。
サットン母斑においても良く見られる所見です。
臨床像と合わせて総合的にご判断願います。
~~~~
どっちとも判断しがたいということか。
まあ、全摘(しかも1cmの深さで)しちゃったことだし、
たとえ悪性腫瘍だったとしても早期治療で良かった良かったという事で。
~~~~

以下、千葉市 そが皮膚科のブログから引用。

クラーク母斑


クラーク母斑 クラーク(Clark)母斑
dysplastic/atypical nevus (異型母斑、非典型母斑)ともよばれます。毛の生えている部位、特に体幹部の非露光部に多くみられる後天性の母斑細胞性母斑です。やや大型(直径5~12mm程度)の楕円形の黒褐色斑を示します。辺縁がやや不整で不明瞭な境界を持ち、褐色と淡黄褐色調の色調の混在がみられます。斑状、丘疹状の部分がみられます。
人種差が大きく、白人ではこのタイプが多くみられ、数が100個以上みられる例や、家族性にみられるケースも稀ではありません。以前Clarkはこのようなケースをdysplastic nevus syndromeあるいはB-K mole syndrome(BとKは報告患者のイニシャルに由来する)と名付け、これがメラノーマへの進展過程にある中間病変と見做された時期がありました。欧米において一時期B-K mole syndromeを前癌病変として不必要に拡大手術をしていたこともあるようです(Raman)。
しかし、現在では高度な異型性母斑は実は多くが表在拡大型黒色腫の早期病変(SSM in situ)であると考えられています。すなわちClark型母斑はあくまで良性のもので前癌病変ではないということです。
dysplasiaという言葉は本来、病理組織学的用語で、atypial nevusいうのは臨床的名称です。dysplastic nevusという名称はこのようにまぎらわしいために、1992年NIHはこの名称よりもatypical nevus, atypical moles, atypical melanocytic nevus, Clark nevusなどと呼ぶように推奨しています。
Clark母斑は本来良性の母斑ですが、但し白人でこのタイプの母斑が多発する人がメラノーマになる確率はその他の人と比べると明らかに高率なことがわかっています。すなわちこれらのケースでは母斑は前癌病変ではないけれども、リスク要因となることになります。
日本人では散発例がほとんどで、まずB-K mole syndromeに相当する例は稀なようです。しかしClark母斑とSSM (表在拡大型黒色腫)を正確に鑑別することは非常に重要なことといえます。
通常の後天性母斑細胞性母斑(ほくろ)と非典型母斑(AN)との違いは次のように記述されていますが、臨床症状を元にしているために必ずしも診断基準、疾患の概念的な位置づけは明確に確定していないようです。
特に典型的ほくろと早期のメラノーマの両方のボーダーラインに当たるケースでは専門家でも意見が別れたり診断の難しいケースもあるそうです。
【発症年齢】通常の黒子は小児期から思春期、ANは思春期を過ぎても発症。黒子の数のピークは30~40歳代にあることがわかっている。それ以降に増えてくる黒子には注意が必要。
【色調】通常の黒子は皮膚色、褐色、黒色だが均一。ANはピンクの色調を含んだ淡褐色から濃褐色の病変で中央部が盛り上がり、辺縁部が平坦になり、しばしば色調がぼやけたり、切痕があったりする。目玉焼き様の外観と形容されることもある。
【直径】通常の黒子は1~10mm。ANでは5~12mm。
【部位】通常の黒子は全身何処でもできる。ANは前胸部、背部など露光部に多いが、臀部、頭部、陰部などにもできる。
【数】通常の黒子は10個以内、ANは1個のこともあるが、時には100個を越えることがある。(B-K mole syndrome)
Atypical Neviについては白人では上述のように、日本人などとはかなり異なった臨床症状、概念があるようです。
日本ではANの多発型は滅多になく、黒子の数が多い人はメラノーマの発症リスクが高いのかどうかというエビデンスレベルの高い研究はなされていないそうです。
しかし、メラノーマの発症リスクが格段に高い欧米の白人については多くの調査、研究がなされています。
ほくろの数が多い人はメラノーマの発症リスクは高いことがわかっており、更にANのある人、ほくろの数が50個、100個と多数の人、メラノーマをすでに発症した人、身内にこれらのある人などはその頻度に比例するように、メラノーマ発症リスクのオッズ比は上昇していきます。
これらをB-K mole syndromeと呼ぶことは上述しました。
別名としてDysplastic nevus syndrome, Familial melanoma syndrome, Familial atypical multiple mole-melanoma(FAMMM) syndrome などともよばれます。これらの家族性に発症する患者さんではCDKN2A遺伝子の変異がみられるそうです。この遺伝子異常のある人は生涯のうちでメラノーマを発症する確率がかなり高く、また膵臓癌を発症する確率も高いそうです。
それで、これらハイリスクの人は定期的に全身の写真を撮ること、疑わしい黒子はメジャーを付けてクローズアップの写真を撮ること、さらにダーモスコピーでチェックすることが推奨されています。ハイリスクであれば3ヶ月ごと、安定していれば6ヶ月,12ヶ月に延ばします。また紫外線対策も厳重に行うことが推奨されています。
治療は通常のほくろならば、炭酸ガスなどのレーザー治療を行いますが、ANの場合はexcisional biopsy(腫瘍を全て取ること)を行います。shave biopsy(腫瘍を浅く削り取ること)は取り残しの危険性があるために推奨されません。
良性の黒子の治療ではレーザー治療もよくおこなわれますが、葛西先生のコメントに次のような記事がありました。
(コラム)顔と体に黒子があれば、まず顔を治療
「キズは顔の方が体幹や四肢よりもきれいに治る」ということを知っておくことである。
「体幹の黒子はクラーク母斑やウンナ母斑も多いので、比較的浅い母斑も多く、炭酸ガスレーザー治療には有利である。しかし、逆に、体幹は、顔面に比べて創傷治癒が悪いため、瘢痕化をきたしやすく、炭酸ガスレーザー治療には不利である。」
ダーモスコピー所見は、reticular pattern(網状パターン)が主体となりますが、網目の太さや、色調が不均一の場合はメラノーマも疑われます。
その他にはglobular pattern(小球状パターン)、homogenous pattern(均一パターン)、central hypo-pigmentation(中心色素脱失)などがあるそうです。 ただ、それらの不規則、無秩序さをどう評価するかは専門家の眼力によります。
参考文献
Raman Madan et al: The so-called dysplastic nevus is not dysplastic at all. Dermatology Practical & conceptual. 2013 Vol. 3, No1. 1-
斎田俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012
葛西健一郎、酒井めぐみ、山村有美 炭酸ガスレーザー治療入門 文光堂 2008

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