03:休むに似たり

主人公は政治家じゃない。役人だ。

投稿日:

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/040400379/

主人公は政治家じゃない。今も昔も役人でした。

國分:僕はもともと政治哲学出身なんですが、どうも近代の政治哲学はピント外れの議論ばかりしてきたんじゃないか、と最近思うようになりました。

坂本:といいますと?

國分:これまでの政治哲学って、立法権にどう正当性を与えるかという話ばかりしてきたんです。たとえば社会契約論ってそれですよね。

坂本:立法、行政、司法の三権分立で、国民が選んだ政治家が担うのが立法権ですね。法律を定めることによって、行政を動かす。

國分:教科書通りにいうとまさにそうなんです。でも実態はどうか? 政治家は、政治より選挙で頭がいっぱいですよね。

坂本:(笑)

國分:実際の政治を行い、統治を担っているのは実は行政、つまり官僚、役人です。政治の教科書には、立法権力が物事を決めて、それを行政権力がただただ執行すると書いてあるけれど。

坂本:学校ではそう習ったけれど。

國分:でも、実際には行政権力が物事を決めている。たとえば官僚が「こんど新しい制度を導入します」とか決めて、そのための予算や法律を国会に頼んで承認してもらう、というのが統治の現実ですよね。だから行政の上に立法があるんじゃなくて、立法の上に行政がある。

坂本:三権、分立してない(笑)。そこで問題がものすごく明確に見えてきますね。というのも、政治家は、民主主義に則った選挙という方法で国民が首をすげかえることができる。でも、官僚はいったんなったら、国民の力では変えられない。

國分:そうなんです。

坂本:しかし、実際にものごとを動かしているのは官僚。だから、政権がいくら変わろうと、いろいろな政治問題の本質は変わらないまま。

國分:まったく何も変わらない。これは国だけじゃなくて地方でも当てはまる話です。僕が今直面している個人的な体験、お話ししてもいいですか?

坂本:どうぞ。

50年前の道路計画が、小平のどんぐりの森を切り裂くとき

國分:いま、僕は多摩の小平に住んでいるんですが、自宅の近所にすごく素敵などんぐりの森があるんですね。住民もとっても大切にしている。今まで開発されずに奇跡的に残っていた。その脇には玉川上水が流れていて、木々に囲まれたきれいな遊歩道もあります。

 ところが数年前、東京都が突然そこに道路を通すと言い出した。都道328号線という道路なんですが、実はその道路計画は50年も前に立案されたものだったんです。50年も凍結していたというのに、それを何の前触れもなく作ると言い出した。

 住民の多くはもちろん反対で、僕も反対です。ところが、実際に事業に触れてみてわかったのは、行政の決定に対して僕らは何も出来ないような仕組みが作られているということなんです。

 東京都は市内の体育館で説明会をやって、ものすごく丁重に対応する。巨大スクリーンをトラックで運んできて、そこに何千万もかけて作ったらしい説明ビデオを一時間ばかり映して、その後、30分ほど、まったく意味のない質疑応答をやってそれで終わりです。これで「住民説明会」というアリバイが完成する。

坂本:原発の誘致のスキームと同じですね。

國分:そう。まさに原発の誘致などでやってきたことの縮小版です。民主主義とか言っているけれど、僕らには行政が決めたことにアクセスする権利が与えられていない。僕はそのことを本当に心から実感しました。

 そして、これは近代の民主主義の理論そのものの欠陥ではないかと思い至ったんです。民主主義とか言っても、僕らに許されているのは、数年に一度、不完全な形で、部分的に、立法権に関わることだけですね。つまり、選挙をやって代議士を議会に送り込むことだけです。近代の民主主義は、選挙によって立法権に正統性を与えるという論点についてはいろいろ考えてきたけれど、実際に物事を決めて進めている行政に住民がどうオフィシャルに関わっていけるか、という問題については何も考えてこなかったのではないか。実際、僕らが行政に関われるのは、地方行政の長を選ぶ、知事選や市長選ぐらいのものです。

 だから、立法権、すなわち議会に民意をきちんと反映させるというのは大切な論点だけれども、それ以上に、市民が直接選んだり監視できない「行政」をどのように開いた存在にできるか、ということを今後考えていかないといけないと思うんです。

坂本:政治の主役は、結局、政治家ではなく、官僚であり続けた、と。

國分:はい、そうなんです。だから僕らは「政治を変えよう」というと、すぐ政治家を見てしまうけれど、行政そのもののあり方を変えないと、政治の本質は変わらない。

 そのためには、たとえば住民投票にきちんと拘束力を持たせるとか、行政が物事を決める際の諮問委員会にもっと住民を入れるとか、パブリック・コメントに拘束力を持たせるとか、いくつか新しい制度を作っていく必要がある。

 都道328号線については、計画に住民の意見を反映させる住民投票の実施を求めて、署名集めが行われています。僕も応援していますが、ひと月以内に市内有権者の50分の1の署名を集めなくてはいけなくて、とても大変です(後記:署名簿は1月15日、小平市選挙管理委員会に提出され、その後、法定必要署名数2983筆を大幅に上回る7183筆の有効署名が同委員会によって確認された。3月に開催される小平市議会が、この署名を認めて住民投票を実施するか、それとも否決するかに注目が集まっている)。

 住民投票を求める署名というのは住民が行政に直接アクセスできる数少ない制度の一つなんですけど、これもパッと見では分からない制約がいろいろ課してあるんですよ。署名だけじゃなくて、捺印もしてもらわなければならないし、生年月日も書いてもらわないといけない。女性には生年月日を書いてもらうというのが結構気が引けるんですよね……。でも何としてでも実現させようと思っています。

NGO、NPOが、市民にとって、選挙よりも「政治的」なわけ

國分:あと、少し視点を変えて言うと、非政府組織、つまりNGOやNPOの役割というのも大変重要だと思います。

坂本:うんうん。

國分:NGOやNPOと企業との違いは、結局、お金儲けじゃなくって、公的な仕事を市民が請け負う、という点につきますよね。それってもともと行政がやっていたことだけど、役所にやらせていると非効率だったり、あるいはコストがかかりすぎたりする。とはいえ、企業じゃ請け負えないし、しかも社会的には絶対に欠かせない、そういう仕事を担うのがNGOであり、NPOですよね。こうした非政府組織への参加であり、応援はすごく大切だと思う。

坂本:まさにその通りですね。環境問題の分野ではそういう動きが先行して10年以上前からはじまっていて、いまや行政もNGOやNPOとの連携なくしてはできない公共的事業はたくさんありますね。アメリカでもヨーロッパでもNGOやNPOが主役の公的な仕事の事例はさまざまな分野でいっぱいある。

國分:僕は最近、薬物・アルコールの依存症の自助グループの人たちにお話を伺う機会があるんですが、たとえばあのようなグループは自治体や政府では絶対にできないだろうと思うわけです。

坂本:アメリカではその手の市民活動、すごくいっぱいあります。

國分:向こうでは本当に社会問題化してますね。僕が知るグループでは、薬物依存やアルコール依存を体験した人たちが、いま苦しんでいる人の手助けをしている。僕は詳しくないのですが、自助グループには長い歴史があって、その中で反省やノウハウが積み重ねられてきている。それを自治体や政府の規模でやるというのは非現実的です。そうなると、こうしたグループが持続可能なかたちで活動を続けられるようにお金が流れる仕組みも必要になってくるでしょうね。

坂本:公の仕事を、市民が担う仕組みですね。

國分:こういうところから考えると、今後の政治哲学はすこし考え方の構えそのものを変えていく必要があると思ってます。

 まずは、立法権にどう正統性を与えるかという古典的な問いは、重要な問いではあるけれども、とりあえず置いておく。その上で、「実際には行政権が立法権を凌駕して作動している」という現実に直接アプローチする政治理論を作っていく。統治しているのは立法権ではなくて、行政権であるという事実を正面から見据えるということですね。

 実践的な課題としては、行政権に住民がオフィシャルにアプローチできる制度を複数確保していく。住民投票やパブリック・コメント、あるいは諮問委員会のあり方などがその選択肢としてあり得ると思う。

 更には新しい行政のあり方として、NPOなり企業なりが公的セクターを担う道を模索していく。それは公権力が福祉などを放棄するという形ではなく、より効率的に行政サービスが実施できる仕方を模索するということです。もちろん、公的セクターを担ったNPOや企業の行動もちゃんと市民がチェックできる体制も作らないといけない。

坂本:アメリカやイギリスなんかで起きている動きでもある。

新自由主義はもともと「弱肉強食」じゃなかった

國分:政治制度の全体を新しいものに変えるというのは難しいし、そもそも新しい理想の政治制度なんて見つからないと思うんです。だから、今の制度に新しい機能をパーツとしてくっつけて改良していくという考え方の方がいいんじゃないか。NPOを足すとか、住民投票機能を足すとか、そういうイメージですね。

坂本:なるほどね。

國分:それに関連して言うと、「新自由主義」って言葉は、日本だと規制緩和して企業優先の市場ができちゃう、という意味で理解されていますね。けれども、この言葉が出てきた背景には、そもそも政府に福祉や公共を任せておくとろくなことにならない、ムダ遣いは多い、不正は多い。ならばそれを社会の中の複数のアクターで担ったらどうか、という考えだったらしいんです。

坂本:そう聞くと、まったく違う意味に見えてきますね。

國分:そうなんです。もともとはわりとまともな問題意識からスタートしている。ところが日本では、政府機能を縮小して、福祉を切り捨てて、市場原理の弱肉強食で勝ったヤツだけがえらいって話になってしまった。これじゃあもちろんダメなんです。

 日本のような人口も経済も大きな国が、古典的な大きな政府、古い福祉国家のスタイルで社会を維持できるかというと現実的にはなかなか難しい。だったら、市場のいいところは活かしつつ、安直な市場原理主義に陥らない新しい政治と経済と社会の枠組みを考えていくというのはありじゃないかと思うんですね。

坂本:古い福祉国家のモデルは、日本では難しいですか。フランスは福祉国家型を維持していて、かなり税金は高いけれども医療や教育は無料、となっていますよね。

子どもを「タダで」産めるフランス

國分:古い福祉国家モデルが日本でどこまでできるかは僕も分からないんです。

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