【正論】政治評論家・屋山太郎 「官僚の口車」に乗った末の惨敗 <MSN産経 2010/07/13>を添削
菅直人首相は民主党惨敗にもかかわらず、首相続投と民主党執行部の責任を問わない意向を示した。民主党は、今後の国会、政局運営にはみんなの党と公明党の協力を仰がざるを得ない立場に追い込まれた。今のところ、みんなの党の渡辺喜美代表も公明党の山口那津男代表も連立拒否の態度を表明しているが、闇雲に対立するのでは政治にならない。民主党は両党との連立でなければ政策連合、部分連合を模索することになろう。
≪労組の機嫌取りの政策運営≫
菅首相の敗北は本人の言うように「消費税の持ち出し方が乱暴だった」という点だけではない。首相がまず取り組むべきだったのは首相自身が著書に書いているように「官僚内閣制の精算」だったはずだ。そのためには内閣人事局の設置を盛り込む国家公務員法改正、国家戦略局、行政刷新会議の設置を進める政治主導確立法案を完全な形に修正してまず成立させるべきだった。これらの法案は霞が関官僚を政治主導で動かす決め手だった。ところが鳩山由紀夫前政権で内容がすべて骨抜きにされ、結局は廃案、継続審議の憂き目になった。
自民党でもなく民主党でもなく、みんなの党に大きな支持が集まったのは、2009年の総選挙で民主党に300議席を与えたのを誤りだったと感じた国民が極めて多かったということだ。
公務員制度改革に何らの実績も残さないまま、「政治とカネ」で鳩山・小沢(幹事長)体制は崩壊した。ところが菅首相も、公務員制度改革や政治主導確立法案に何の興味も示さなかった。公務員制度の大看板だった「天下り禁止」「わたり根絶」は「斡旋しなければよい」という内閣方針を確認する始末だ。参院選を前に、選挙マシンである公務員労組の機嫌を取る思惑がありありと見えた。
菅首相は公務員制度に無関心なだけでなく、財務官僚に乗せられて消費税の口火を切った。たまたま自民党の谷垣禎一総裁が10%と口走ったのに乗った形だ。しかし2人とも、公務員制度の改革は回避して歳入だけは確保したいという財務省の口車に乗せられただけの話ではないか。
≪公務員改革の再度の推進を≫
鳩山、菅両内閣の失敗は(1)政治主導の司令部を作る、(2)各省幹部人事を掌握する、という仕掛けをうやむやにした結果だ。内閣の総意として政策は発信されなければならないのに、司令部がないから代表個人の思惑が勝手に発信されることになる。それが鳩山前首相の普天間であり、菅首相の消費税だ。官僚内閣制の改革を模索しながら官僚の思惑に乗ったのだ。霞が関改革については、みんなの党が最も熱心に取り組み、すでに法案を提出し、先の国会で否決された。菅首相がやるべきことは、捨て去った法案を改めて検討し、さらにブラッシュ・アップして国民に示すことしかない。
それが満足なものなら、みんなの党も公明党も、あるいは自民党も反対のしようがない。こういう話し合いの端緒をみつけて連立、政策提携によってしか政治を軌道に乗せる方法はない。
国家公務員にスト権(基本権)まで認めて、民間労働者並みの権利を与える一方、解雇する権利を国(使用者)が持つ以外に、民主党、自民党、みんなの党が言っている「公務員の人件費2割削減」などは絵に描いた餅だ。地域主権への移行も進むはずがない。
≪小沢氏に党内抗争の資格なし≫
菅首相は原点に返って公務員制度のやり直しから始めるべきだ。政治主導の器も作らせず、歳入改革の踊りだけやらされたのは菅首相が独断で事を進めるからだ。民主党には、政党は衆知を集めるからこそ知恵が生まれ、推進力を持つという自覚がなさすぎる。小沢前幹事長などは天下り根絶の大看板を掲げながら、亀井静香前郵政担当相が進めた日本郵政への典型的な天下り人事にお墨付きを与えた。
民主党は民主的システムを構築し、談論風発の党風を醸成すべきだ。マニフェストにもない在日外国人地方参政権付与、夫婦別姓、人権侵害救済機関設置法(旧人権擁護法)などがポンポンと党首脳の口から出てくる。これらは国柄とか国の姿を変える話で、改革ではなく革命だ。これらに熱心だった千葉景子法相が落選した。マニフェストにもないものを突然出してくるというのは国民への闇討ちであって、まともな政党の自覚が欠けている。
郵政改革法案などはまさに小沢・亀井両氏の独断専行であり、百害あって一利なしだ。消費税論議は霞が関改革が一段落したあとにすべきだ。参院選惨敗に乗じて小沢氏のグループが2010/09の民主党代表選に向けて、菅おろしを画策する可能性がある。
小沢氏は一兵卒と言いつつ菅氏の消費税発言を攻撃した。小沢氏は「政治とカネ」の責任と、独裁的な党運営を嫌気されて、幹事長を辞任した人物である。破廉恥罪を犯した者が党内抗争を仕掛ける資格は全くない。それを許すようなら民主党は終わりだ。
2010参院選:民主党の敗因は、公務員改革に真面目に取り組む気がないからだ。
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執筆者:osakanamanbow